◆透き漆、又は赤呂漆の手黒目
透き漆、又は赤呂漆の手黒目 1
手黒目精製は画像のフネに漆を入れて行います。私のフネは縦163cm、幅81cmの物で、最大13Kg位までの漆を黒目る事が出来ます。今回は、黒目るにあたり本来ならもう少し暖かい時期に行うのですが、この時期になってしまいましたので、少しでも早く黒まるように日の光にかざしてフネを暖めた後、黒目る生漆(きうるし)を入れ、フネを斜めに立てかけ、Tの字の拌棒(ハンボウ)で下に溜まっている漆を上の方へ押し上げます、溜まっている漆を万遍なく押し上げたいので、端から端へと3回に渡り移動しながら押し上げます。漆が落ちてくる時や、その時に起つ泡から水分が蒸発し黒まって行きます、この工程を黒目と言います、ちなみに、日の当たらない時間等に、この工程を行うと水分の蒸発は必然的に遅くなり、かくはんしているだけの作業になります、その工程をナヤシと言いい、分子の構造が密になるので乾いた時艶の有る漆に仕上がります。
透き漆、又は赤呂漆の手黒目 2
仕上げる漆は透き漆で、赤呂とか言われ、そのまま透き漆に使われたり顔料を入れて練る色漆に使われる漆の精製です。画像は始めてから40分位経った様子です、水分が蒸発した分、乳白色していた生漆がべっ甲色に近づいて来てます。今回は採った漆、約2.5Kgとフネの大きさからすると少ないので黒まりの進みも速いです、少々気温も低く風も有ったので、逆に早く仕上がるように大きめのフネを使いました。他所の漆器産地では、木曽のような縦長フネでなく、大きめな桶や鉢等を使って黒目ている処が多いようです、各々利点が有るようですが、丸物フネですと量的に多く出来にくいですし、常に同じ所を同じような厚みで漆をカクハンするだけなので、黒まりも遅く時間も掛かり、ナヤシをより多く掛ける感じになります、自分好みの精製が出来る事を含め、黒めるには縦長のフネの方が優れていると思います。
透き漆、又は赤呂漆の手黒目 3
黒目が仕上がったところです、漆に濁りも無くなり綺麗なべっ甲色の透き漆が出来ました。今回は早めに仕上げたくて、1時間40分位で出来ました、一般的に理想とする仕上がりは、92〜97%の水分を抜く事だと言われています、只、測定機を持っているわけでも無いので、ガラスに着け漆をし、その透け加減や濁りの有無で判断します。黒目る量や天気・気温・風の有無等により黒まる時間は変わります、私は艶消し漆の方が好きなのでナヤシをあまり掛けないで仕上げます。この後ゴミを取り除いて、約1.7Kg入る丼に分けて入れます。漆を入れる専用のボール紙桶も有りますが、常に漆が冷えている事(残りの水分が少しでも蒸発しないように)等を考えると、焼き物の器の方が保存するには良いと思います。
◆黒漆の手黒目
黒漆の手黒目 1
黒漆を作る工程の、画像は生漆に鉄粉を入れて、1ヶ月間毎日“かくはん”して来た様子で、グレーの色に変化して来ており、そのまま蓋紙をしないで於くと、直ぐに黒く変化します。最初の数日間は泡が立って、お酒が発酵したような感じで面白いです、投入する鉄粉の量が多いと、精製し終えた漆は、最初は良いのですが、数ヶ月経つと粘りの有る漆に仕上がって仕舞います。鉄粉の量は漆の量に対してほんの僅かで大丈夫です、それよりも、毎日一回“かくはん”して、それを20日以上はする事が大事です。そうする事で、刷毛目の立ちにくい、伸びの有るサラサラの黒漆に仕上がります。
黒漆の手黒目 2
画像は、黒目始めてから20分位経った様子です。生漆の量も約1.7kgと少ないので、最初のグレーの色からは直ぐに黒くなった方です。黒目る漆の量、使う舟の大きさにより黒く変化する時間は変わります。黒漆を作る方法に、もう一つ透き漆を仕上げる寸前に、寒天状の水酸化鉄を漆に対して決められた分量を投入するやり方が有ります。只、水酸化鉄を作るには2つの薬品が必要ですし、買うにも印鑑が要る劇薬ですし、水酸化鉄を作る手間や長期の保存には向いてない事を踏まえると、鉄粉を使う方が楽だと思います。
黒漆の手黒目 3
仕上がった様子です。人によっては、水酸化鉄で黒目た漆の方が良いと言いますが、問題は、鉄粉の入れる量だと思います。多めに入れる事で2日位でグレー色になるので、充分生漆の一つ一つの分子と混ざり合わない内に黒目てしまったり、早くグレー色になる事で、攪拌を20日以上長期間に渡り、毎日繰り返さない事が良くない事だと思います。ちなみに、金箆等の鉄製の物に生漆を着けてしばらく置くと黒漆に変化します。それをそのまま使う事はお勧めしませんが、漆の変化を直ぐに見る事が出来ます。
◆機械精製について
機械精製について
機械精製は画像の桶型で行います。高度成長に合わせ、漆器の売れた時代に、漆も大量に使うようになり、機械で精製する事が必要になりました、画像の機械は当地の組合の精漆工場の物で、最盛期は6〜7台可動していました。桶は直径1.2m位の物で、最大25Kgの漆を黒目る事が出来ます、底に中心の軸に硬質ゴムの付いた羽がモーターで回転し、画像の上に見えるガスバーナーを下ろして、水分を抜きながら黒目ます、手黒目にも言える事ですが、漆自体の温度が51度を超えると不乾漆(ふかんうるし)と言って、乾かない漆に仕上がってしまします、その点を注意しながら行います。機械ですので、羽は1分間に数回転しますし、羽自体も金属で重量が有るので、必然的にナヤシが掛かります、その為機械精製では艶消しの漆は出来難いです。只、研いで艶を出し行く、呂色仕上げの場合は機械精製の漆の方が、艶が上がりやすいです、仕上げの目的にあった漆を使えば良いと思います。
私が毎年、手黒目を行っているのは、微妙に乾きの違う漆が必要だからです。季節によって漆の乾きは違います、梅雨時等は乾きが早いですし、2〜3月の芽吹き時は乾きが遅いので、乾きの違う漆を混ぜて使う事で、常に同じ状態で乾いてくれます、それと、一つの漆のみですと、常に毎年同じ漆に仕上がれば良いのですが、どうしても微妙に違い、塗り上がる品物が一定になりにくいです、ブレンドする事で常に同じ仕上がりになってくれます、ですので、乾きの早い漆、乾きの遅い漆と、その年毎に求める漆を作ります。
それと、漆の弱点は紫外線に弱い事です、その漆を紫外線に当てながら黒目る事が、毒を持って毒を征するように、強い漆が出来上がる感じがします、確たる根拠が有る訳では有りませんが、31年前から毎年黒目て来て感じる事です。大まかな説明ですが、参考にして頂ければ有難いです。
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